2012(第9回)本屋大賞を受賞した、「舟を編む」を読んだ。
実は5、6年前まで、私は本屋大賞なるものを受賞するような本とは、
まったく縁が無い読書人生を歩んできた。
そんな私を変えてくれたのが、
お得意先の読書が好きなクリエイターさんだった。
雑談の中でお互い読書好きというコトが判明。
「いつもどんな本を読んでるんですか」などと話が発展し、
それ以来ときどきお互いの本を貸し借りするようになったのです。
「これ、第1回の本屋大賞を受賞してるんです」と教えてもらい、
最初に借りたのが「博士の愛した数式」。
この手の本は、それまでの私は避ける傾向があり、
その人に勧められなければ読むことがなかったでしょう。
ところが、いざ読んでみるとスルスルッと読み進められて、
いつもより眼圧も半分。眉間のシワもスッキリ状態。
なんだかライトな清涼飲料水をクイッ、クイッと飲んだような感覚で、
新鮮な読後感を体験することに……。
食わず嫌いは何かと損することを、改めて認識させられたのでした。
その人には、その後も本屋大賞を獲った「夜のピクニック」や
「ゴールデンスランバー」をはじめ、たくさんの本を借りました。
「夜のピクニック」なんて中学生のお話。
これこそ勧められなければ、ズェッタイに読まない本です。
それが主人公と年頃が同じくらいの我が子に、
「これ読んでごらん」なんてコトになるとは……。
意図せぬ科学変化による予期せぬ展開とでも言いましょうか。
「夜のピクニック」の中で記憶に残っているフレーズ。
「今は今なんだ、今を未来のために使うべきじゃない」。
なんだか、若くてイイですね。
映画もドラマもヒットした「東京タワー オカンとボクと、時々オトン」は
スタッフに借りて読みました。
そしてリリー・フランキーの思惑通り、
まんまと泣かされてしまいました。
「告白」と「舟を編む」は、自腹で購入。
しかし「告白」は、映画の出来が良過ぎたので、
本の印象がどっかへ吹っ飛んじゃいましたねー。
映像にしやすいシチュエーションだったこともありますが、
映画が原作を超えてしまったマレな例の一つですね。
「下妻物語」、「嫌われ松子の一生」、「パコと魔法の絵本」、そして「告白」。
CMディレクター出身の中島監督が手掛ける映画は、
どれをとっても独特の色使いが印象に残る映像で、
次回作が待ち遠しくなる数少ない日本人監督の一人です。
さて「舟を編む」ですが、帯に書いてある通り辞書を作る人たちの話。
世の中に辞書があるってことは、その辞書を誰かが作っているハズなのに、
なぜか辞書に関しては以前からあるモノとして、
「誰かがワザワザ作ったなんて考えたコトはない」っていう人が多いのではないでしょうか。
私もその中の一人でした。
「舟を編む」は歴代の大賞作品の中で最高得点を獲得したらしいですが、
目の付け所が良かったな~って感想です。
言葉を厳選し、広告デザインを手掛ける者として、
気になったフレーズをご紹介。
「こだわり」はいい意味に使ってはならん言葉だぞ、
「匠のこだわりの逸品」などと言うがありゃ誤用だ、
「こだわり」の本来の意味は「拘泥」すること「難癖」をつける
ということなんだから。
「助長」と同じで、「こだわり」も昔は悪い意味でしか使われなかったんですね。
でも言葉は生き物。現代では想いを込めたいい意味の代表格として認知されていますよね。
最後に、職業柄ココロに響いたフレーズを2つご紹介。
言葉の重要性に気づきました。記憶とは言葉なのだそうです。
香りや味や音をきっかけに古い記憶が呼び起されることがあります。
それはすなわち曖昧なまま眠っていたものを言語化するということです。
おいしい料理を食べたとき、いかに味を言語化して記憶しておけるか、
板前にとって大事な能力とはそういうことなのだと辞書づくりに没頭する
彼を見て気づかされました。
何かを生み出すためにには、言葉がいる。
皆さん、言葉をしっかり武装しましょう。