先日、散髪に行った時のこと。
新型コロナの影響でこのお店もしばらく閉めていたようで、
再開できる喜びが店内に満ちていた。
自分の順番が来たと思った時、少年がお店に入ってきた。
お店の人が少年の顔を見たとたん
お店の人:「ひさしぶりじゃな~」
少年:「ここがずっと閉まっとったんじゃがー」
お店の人:「おおそうじゃった、元気にしょうたか」
少年:「うん」
お店の人:「おおそうじゃ、〇〇くん、高校生になったんよの」
少年:「うん」
お店の人:「なんか部活入ったんか」
少年:「〇〇部に入った」(残念ながら覚えてません)
お店の人:「おおそうか。がんばってレギュラーにならんと」
少年:「コロナで練習できりゃせんよ」
お店の人:「おおそうじゃのう……そういやーさっきお父さんが来たで」
少年:「家出る時に会うた、この後、弟も来るけん」
お店の人:「おおそうか、いやいや弟くんもひさしぶりじゃもんのー」
「弟くんも元気にしょーるんかのー」
少年:「しょーる」
お店の人:「そうか、弟くんも来てくれるんか…」
「お父さんも、〇〇くんも、弟くんも、みんな元気でうれしいのー」
少年:「〇〇さんも元気そうで、よかった」
お店の人:「ずっと閉めとったけど、会えてうれしいわ」
けっこう待たされたが、悪い気はしない。
会話を聞いていたら、自分が幼い頃を思い出した。
昭和の時代は生活エリアに床屋が数件しかなく、
まるで伝統を継承かのように、オヤジが通う床屋に男の子は通うこととなる。
自分が通っていた床屋さんは、おじさんというよりはオニイさんのような年齢で、
とにかくおしゃべりが大好きで、
散髪するよりしゃべっている時間の方が長かった。
まだガキの自分に向かって、誰だれが新車を買って隣に女を乗せていただの、
(お店が当時誰もが通るメインの国道沿いなので、チェックは欠かさない)
誰だれがボートや麻雀で大謝金しただの、
誰だれの浮気がばれて嫁さんに頭をボウズに刈られただの、
大袈裟なジェスチャーを交えて話しかけてきた。
当時の床屋さんは情報の宝庫で、この界隈で起きた出来事を
聞きたくなくても教えていただける。
特にオニイさんはおしゃべり大好き人間なので、
ここでは楽しみにしていた月刊ジャンプを、落ち着いて読むことなどできない。
とにかく話しかけてくる。
また昭和の床屋さんは、夫婦で働くのが定番。
この床屋さんも奥さんが働いていて、シャンプーは奥さんの担当。
奥さんがシャンプーしている間、オニイさんは横でタバコを吹かしながら
相変わらずしゃべり続けていた。
今でも多いが、当時の床屋さんはほぼ100%店舗兼住宅。
なのでシャンプーが終わると奥さんが奥の住まいに消えることがある。
するとオニイさんのスイッチが入り、声が低く小さくなる。
少し耳元に距離をつめて、大人の情報を伝授してくれるのであった。
調子に乗ったオニイさんが口を滑らせ血気盛んな頃のオヤジの悪行をバラし、
バツが悪い顔をして、こっちの方がそんな話を聞かされてたまらんわと何度思ったことか。
冒頭の少年と同じように、自分の弟もおしゃべりニイさんの床屋に通っていたので、
床屋を自由に選ぶ選択権が与えられるまで、兄弟同じデザインの頭をしていた。
当時はそれがあたり前だった。
同級生も何人かこの床屋に通っていて、みんな同じデザインの頭をしていた。
懐かしいな~と思っていたら、自分が呼ばれた。
ちなみにこのお店、知ってはいたがはじめて入ったお店。
散髪がフィニッシュに差し掛かった時、聞かれた。
「もみあげはどうします?」
えっ?どうするって?思っていると。
「自然な感じでいいですか…」
コクリと頷く。
散髪が終わりお店を出て、車に乗りながら思った。
不自然なもみあげってどんなんだろう…?。
少年との会話で昭和へとタイムスリップさせてくれたこのお店。
もう一度行く理由ができました。
次回は“不自然なもみあげ”にチャレンジしたいと思います。