5月~8月末までの4ヶ月間に観た“いい映画ベストスリー”
第1位はダントツで「雪の轍」です。
この映画、好きな人とそうでない人がハッキリ別れているようで、
その証拠に私が通うTSUTAYAでは、
私がレンタルした時には4、5本ありましたが、
今ではたった1本しか置かれていません。
2014年カンヌ国際映画祭 最高賞パルムドールを受賞したそうですが、
どうやらこの映画、一部のマニアックな人にしかウケないようです。
世界遺産トルコのカッパドキアを舞台に繰り広げられる、
ささくれた人間ドラマなのですが、
カッパドキアの大自然がおろかな人間を象徴しているようで、
いい感じなんです。
元舞台俳優のおじさんは、親からカッパドキアの洞窟ホテルを受け継ぎ、
今ではホテルのオーナーとして悠々自適に生活しています。
さらに、ずいぶん歳の離れた若くて美しい妻もいて、
なに不自由ない贅沢スローライフを体現しているように表面上は見える。
二人の間に子どもは無いが、おじさんにはバツイチの妹がいて、
広々とした邸宅で夫婦と居候している妹、大人3人が一緒に暮らしています。
3時間16分の映画の中で、見せ場はなんと言っても2回の大口論。
豊かなポキャブラリーと適格なメタファーを駆使して、
これまで胸に秘めていた心情を互いにぶつけ合います。
まずはおじさんと妹の口論。
毎度のことなのでしょう、
あいさつ代わりのちょっとした皮肉の応酬から2人の会話がはじまります。
妹が発した「無言で批判する名人だから」の言葉に、
なんだかいつもより雲行きが怪しいと、イヤな思いが頭をよぎる兄。
妹がさらに発した「無難さ加減、万人受けする好ましい要素を盛り込み読者の機嫌をとる、
偽物の叙情主義により吐き気がするほど感傷的」…この言葉に、
兄はとうとうブチ切れ、妹の人間性の否定に本腰を入れます。
そこからのなじり合いが見事。
10分以上つづいたのかな~?、抑制が利かなくなった2人は、
とことん相手の弱点をエグリつづけます。
兄妹の口論ならではの上手い構成、カメラワークも秀逸。
口論を通して兄妹のこれまでの関係が浮き彫りにされます。
次は、おじさんと若い奥さんの口論
いつの間にか、敬意と愛情がなくなってしまった夫婦。
さらに、最近ボランティアに目覚めた妻に
一層ズレを感じるようになったおじさんは、
心に響くいいことを言って妻を諭そうと試みるが、
倍返しの目に合うこととなります。
「あなたは教養があり、誠実で公平で良心的よ、そういう人なのは否定しない、
でも時々その美点を利用して人を窒息させ、踏みつけ、辱める。
高潔さゆえに世の中を嫌悪する。
信じる人を嫌う。信じることは未熟で無知の証だから、
でも信じない人も嫌い。信念と理想の欠如だから、
年よりも嫌い。偏狭で発想が自由じゃないから、
若者は発想が自由で嫌い。伝統も捨ててしまうから、
人は国に貢献すべきと言いながら、人を見れば泥棒か強盗だと疑ってかかる。
つまり人間が嫌い。1人残らず嫌い。
一度でいい、その身を捧げて何かに尽くしてみて」。
これだけの言葉を妻に浴びせられて、普通の男なら意気消沈するだろうが、
我らがおじさんは挫けません。
言葉を尽くせば尽くすだけややこしくなるだけなのに、
果敢に食い下がります。
しかし残念、そのファイトが報われることはありませんでした。
妻からとどめの言葉を投げつけられます。
「良心、倫理、理想、信念、生きる目的……
お決まりのセリフね。誰かに屈辱を与え、傷つけ侮辱する時の常套句、
でも教えてあげる。そんな言葉を連発する人こそ信用ならない」。
はい、終了~
理解という作業を拒絶する妻に、おじさんの言葉は届かないのであります。
これで映画は終わりではなく、
この作品の締めくくりにふさわしい思慮深~い事件が起きてしまいます。
“寄り添いながらいてつく心”
哲学ってるこの映画にぴったりのコピーであります。
秩序とは大いなる矛盾を内包している薄~い表面に過ぎないと、
思わされる映画でした。 ちゃんちゃん。