2016年中旬、勝手に映画ランキング          その4

5月~8月末までの4ヶ月間に観た“いい映画ベストスリー”

第1位はダントツで「雪の轍」です。

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この映画、好きな人とそうでない人がハッキリ別れているようで、

その証拠に私が通うTSUTAYAでは、

私がレンタルした時には4、5本ありましたが、

今ではたった1本しか置かれていません。

2014年カンヌ国際映画祭 最高賞パルムドールを受賞したそうですが、

どうやらこの映画、一部のマニアックな人にしかウケないようです。

世界遺産トルコのカッパドキアを舞台に繰り広げられる、

ささくれた人間ドラマなのですが、

カッパドキアの大自然がおろかな人間を象徴しているようで、

いい感じなんです。

元舞台俳優のおじさんは、親からカッパドキアの洞窟ホテルを受け継ぎ、

今ではホテルのオーナーとして悠々自適に生活しています。

さらに、ずいぶん歳の離れた若くて美しい妻もいて、

なに不自由ない贅沢スローライフを体現しているように表面上は見える。

二人の間に子どもは無いが、おじさんにはバツイチの妹がいて、

広々とした邸宅で夫婦と居候している妹、大人3人が一緒に暮らしています。

3時間16分の映画の中で、見せ場はなんと言っても2回の大口論。

豊かなポキャブラリーと適格なメタファーを駆使して、

これまで胸に秘めていた心情を互いにぶつけ合います。

まずはおじさんと妹の口論。

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毎度のことなのでしょう、

あいさつ代わりのちょっとした皮肉の応酬から2人の会話がはじまります。

妹が発した「無言で批判する名人だから」の言葉に、

なんだかいつもより雲行きが怪しいと、イヤな思いが頭をよぎる兄。

妹がさらに発した「無難さ加減、万人受けする好ましい要素を盛り込み読者の機嫌をとる、

偽物の叙情主義により吐き気がするほど感傷的」…この言葉に、

兄はとうとうブチ切れ、妹の人間性の否定に本腰を入れます。

そこからのなじり合いが見事。

10分以上つづいたのかな~?、抑制が利かなくなった2人は、

とことん相手の弱点をエグリつづけます。

兄妹の口論ならではの上手い構成、カメラワークも秀逸。

口論を通して兄妹のこれまでの関係が浮き彫りにされます。

次は、おじさんと若い奥さんの口論

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いつの間にか、敬意と愛情がなくなってしまった夫婦。

さらに、最近ボランティアに目覚めた妻に

一層ズレを感じるようになったおじさんは、

心に響くいいことを言って妻を諭そうと試みるが、

倍返しの目に合うこととなります。

「あなたは教養があり、誠実で公平で良心的よ、そういう人なのは否定しない、

でも時々その美点を利用して人を窒息させ、踏みつけ、辱める。

高潔さゆえに世の中を嫌悪する。

信じる人を嫌う。信じることは未熟で無知の証だから、

でも信じない人も嫌い。信念と理想の欠如だから、

年よりも嫌い。偏狭で発想が自由じゃないから、

若者は発想が自由で嫌い。伝統も捨ててしまうから、

人は国に貢献すべきと言いながら、人を見れば泥棒か強盗だと疑ってかかる。

つまり人間が嫌い。1人残らず嫌い。

一度でいい、その身を捧げて何かに尽くしてみて」。

これだけの言葉を妻に浴びせられて、普通の男なら意気消沈するだろうが、

我らがおじさんは挫けません。

言葉を尽くせば尽くすだけややこしくなるだけなのに、

果敢に食い下がります。

しかし残念、そのファイトが報われることはありませんでした。

妻からとどめの言葉を投げつけられます。

「良心、倫理、理想、信念、生きる目的……

お決まりのセリフね。誰かに屈辱を与え、傷つけ侮辱する時の常套句、

でも教えてあげる。そんな言葉を連発する人こそ信用ならない」。

はい、終了~

理解という作業を拒絶する妻に、おじさんの言葉は届かないのであります。

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これで映画は終わりではなく、

この作品の締めくくりにふさわしい思慮深~い事件が起きてしまいます。

“寄り添いながらいてつく心”

哲学ってるこの映画にぴったりのコピーであります。

秩序とは大いなる矛盾を内包している薄~い表面に過ぎないと、

思わされる映画でした。 ちゃんちゃん。

 

 


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